朝6時半、くろがね小屋で朝食のおせち料理をいただき、(おせちが出るとは思わなかったのでテンション上がった)小屋を出発する人たちから一歩出遅れてわたしたちも出発した。
実は、この日に目指す方向を直前まで決めかねていた。
はじめに、冬の安達太良山に行きたいと思ったきっかけは、
・買ったばかりのスノーシューを試すこと、
・くろがね小屋に泊まること、
・安達太良山の反対側にある野 湯・沼尻元湯で入浴すること、
この3つをやりたいと思ったことからだった。
しかし、調べるうちに沼尻温泉側に出るのは難しいということが判明。
トレースがまずないので、夏の安達太良山を知っていて雪山の経験値がある人でなければ 行けないようで、ほとんど情報がなかったのだ。
このルートは、わたしたちには難しいだろうということを頭ではわかっているものの、なかなか諦めがつかなかった。
正直、ここまで来て、試してもいないのにハナから諦めるのはちょっと嫌だった。
多分、相方も同じ気持ちだったのだろう。
沼尻温泉を目指すのか、下山ルートをとるのか、どっちとも決まらない状態でスノーシューを履き、グローブをし、出発するためにしっかりと防寒をして外に出てみる。
吹雪いていた。おそらく前日よりも。
それでも思ったよりも視界が悪くないと思える。
わたしたちは同じ考えだった。
ーとりあえず、途中の鉄山まで目指してみよう。 だめだったら引き返せばいい。ー
途中まで、行きに通った安達太良山山頂方面を進み、牛の背方面への分岐に出た。
くろがね小屋を先に出た団体に追いついたが、彼らは山頂方面へ消えていった。
わたしたちは牛の背方面へ。
牛の背に出れれば稜線沿いに北へ進むと鉄山にたどり着ける筈だった。
竹竿にピンクリボンの道標はなかったが、かろうじて夏道で使う岩に印した赤丸印を見つけることができたのでどうやらこの方向で合っているだろうという安心材料になり、それを辿っていった。
また、途中までトレースが残っていたので誰か通ったのだろうか、それも頼りにした。
しばらく行くと、夏道のしるしもトレースもなくなってしまったので少し焦った。
尾根のようなところが 見えたのでそちらに上がってみたが、どうやら違う。
目指す方向が北を向いていないので牛の背ではないようだ。
さらに、方位磁石の指す方角がなぜか定まらなくてあまり当てにすることができないので少し途方に暮れていた。
自分たちが立っている尾根はひたすら風が強く、相変わらず天気も悪いので山のかたちさえよく見えないのだが、先ほどいた地点からかろうじて見えた黒い岩山がどうにも怪しいので、ここにいてもしようがないということで、確信はないという危うい状況だったがその岩を目指してみることにした。
雪が吹雪く中、見え隠れする黒い岩山を頼りに新雪の斜面をラッセルしながらトラバースして、ゆっくりと近づいていく。
近づくと岩は連なっていて、上がれそうなところから上がってみるとそこは尾根だった。
先の方までは見通せないけれど尾根が続いているようだ。
そして、登ってきた斜面の反対側には盆地が広がっていた。
わたしが思うにそこは沼ノ平なのではないかと。
右に続く尾根を行けば鉄山にたどり着くのではないか、、
けれどもコンパスは狂うしGPSは持っていない、考えを裏付ける情報はないので自分の思い込みを信じることはでなかった。
思い込みで突き進んだとして違ったら遭難してしまうだろう。
もし本当にこの盆地が沼ノ平だとしても、この果てしなく広い盆地に入って方向を見失ったら確実に迷うし硫黄の濃度が濃ければ危険なので沼ノ平に入ることは避ける必要があった。
そんなことを考えたり相談したりしながら2人でうろうろと盆地に降りたり、ああでもないこうでもない、とやっていたが、尾根に上がったときに諦めがついた。
尾根は本当に風が強くて立っているだけで精一杯だったのだ。
事前に見た予報によると風速は23mほど、気温は-15℃。
強風に飛ばされた雪が、顔の皮膚が出ている部分にばちばち当たってかなり痛いし、体感的にはもっと寒くて風ももっと強いんじゃないかと感じるものだった。
バラクラバで覆っていた口の部分など、湿気を含んでいたので氷になっていた。
眉毛やまつげもバリバリに凍る。
この状況を撮影してみようと試みたが、わたしの古いコンパクトカメラとiphoneは電源を付けてすぐに切れてしまった。
電池が凍ってしまったのだろう。
少しでも足を動かしたら吹き飛ばされてしまいそうで、ほんの少し、強風が弱くなったタイミングを見計らって動いた。
ようやく、もと来た道を戻ろうとしたとき、来た道が分からなくなってしまった。
下を見下ろすと、急斜面すぎてどこも降りられそうにない。
強風で自分自身が脅かされることでいっぱいいっぱいになっていたので完全に道を見失ってしまっていたのだ。
今度は強風どころじゃなくなった。
来た道すら戻れなければ 遭難だ。
これには本当に焦った。
尾根を行ったり来たりして降り口を探すも見つからず、強風にさらされ続けて途方もなかったので頭を切り替えて盆地側から山に沿って歩き、道を探すことにした。
すると、薄ぼんやりと夏道の道標が遠くに見えた!
近づいてよく見ると、(少し朦朧としていたので記憶が曖昧だけれど、、)安達太良山方面を指していた。
アタマの中が???となった。
この道標が指し示す方向と自分が思い描いていた位置関係が上手くかみ合わずワケが分からなくなってしまったのだ。
その反面、知っている場所に出れる!という安堵もあった。
もう、道標を信じるしかなかったので指し示す方向へ歩き出した。
そして歩いていくと、前方に見覚えのある景色が見えてきた。
行きに通ってきた、牛の背方面と安達太良山方面を隔てる分岐の道標が見えたのだ!
どうやら、ずっと彷徨っていた尾根を捲いて反対側のもといた場所へ戻ることができたようだ。
本当に、ほっとした。
しかし、ただただ、ラッキーだったということに尽きる。
わたしたちは反省して、無知な冒険を終了させることにし、下山のルートをとった。
無事に戻ってこれたことと引き換えに、無知なわたしたちの次回までの必須課題が浮き彫りになった、、。
【くろがね小屋ー分岐ー牛の背ー分岐】
GPS使っていないので定かではありませんが、おそらくこんな感じに歩いていたんだろうかと、、(思いたい)
夏山を見て、この山の正体を暴きたくなりました。