2016年4月12日火曜日

雪山ゆるゆる縦走の旅ー保存食と山ごはん・その2ー

今回、雪山で作った料理は全てぶっつけ本番であった。

料理のレシピなど見たりしてなんとなくどんなものが作れるか、どんなものを作りたいか、どんな完成形になるだろうか、どんな味になるだろうかなどとイメージはしていたものの、山に入る前に実際に料理してみることは一度もなかった。

単に面倒だとかそれをする時間がなかったということも言えるが意図してそうしていたということも言える。
リハーサルをしてしまうとどんなものが出来上がるのかが大体わかってしまうので、当日現地での楽しみが半減してしまうことを危惧していたのだ。
山に入って初めて作るということは失敗するかもしれないというリスクもある。
まぁしかし他人に振る舞うというわけでもないし、私たち2人だけの食事なので完成度よりもワクワク度を選んだというわけだ。


そして今回もっとも失敗のリスクを危惧していたのは「米」だった。

雪山以外の旅の時はいつも米を炊いている。
けれど米を炊くには20分ほどガスコンロを使うことになり、ガスが命の次ぐらいに大事な雪山生活では極力調理でのガスの使用は減らしたいところだ。
そうなると、米を炊くなんて以ての外でアルファ米がとても有効だ。
昨年は大量に持って行っていたが、アルファ米はそれなりに高いし何食もアルファ米ではどうにも面白みに欠ける。

本来雪山登山をする人は食事の面白みなんて多分関係なくて、いかにガスを食事で節約し
、いかに軽くて簡単に高カロリーの食事を摂れるかということが重要と考えているだろう。
そもそもわたしは自分が雪山登山をしていると思っていないが、食事の面白みはわたしにとっては重要だ。なので雪山で調理することも重要だ。
それでも極力ガスの使用は抑えたい。

それで行き着いた結論は「干し飯(ほしいい)」を使ってみることだった。

干し飯とは、炊いたご飯を水でさらし、天日干して乾燥させたものを言う。
干し飯は「乾飯」・「糒」(ほしい)とも言い、出雲風土記にも「御乾飯(みかれひ)」として出てくるほど相当古くから食べられてきている保存食であり携帯食だ。

今やアルファ米を始め、あらゆる保存食が出回っているのでそんな大昔の保存食を現代で作ってる人なんていないだろうと思いきや、意外にいるようだ。
手軽に作れるということと、うまく保存すれば20年も保つというスーパー保存食だからだろうか。災害時などに備えて作って置いている人もいるらしい。

うん、これはやっぱり作ってみないわけにはいかないな、と思い立ち。
冬晴れの朝、炊飯器に残った冷や飯をざるにあけ、水にさらしたものを外に干す。





朝外に出し、夕方取り込むということを5日間ほど繰り返し、カピカピに乾燥したご飯が出来上がった。
見た目としては、ご飯食べてて服に米粒がくっついて、時間が経って気付いた時の状態だ。
なので、美味しそうには見えない。
試みでもあったが山に持っていくことを念頭に置いて作った。しかし出来たものを見たら山に持っていく気が失せそうになる。
え?マジでこれを山に持って行って食べるつもり?!と自問自答してしまう。
それだけ不安になってしまう見た目なのだ。

いやしかし、と決心し、「相方よ、すまん」という想いでメニューに組み込むことにした。
、、、しかし自信なさげに料理するのはよろしくないので、さも自信たっぷりのメニューです、というような意気込みで現場では挑むことにした。


一般的な食べ方は水やお湯でふやかしたり、炒めるたりして食べる。あとは油で揚げておこしみたいに食べることもできるようだ。
忍者とか戦国時代の合戦の場では乾燥したものをそのまま口に放り込んでゆっくり柔らかくしながら食べていたという噂も聞いたことがある。

忍者のようにそのまま食べるなんてことは考えられないので、今回の食べ方は一番うまくいくだろうと思える雑炊だった。
干し野菜も加え、その旨味を活かした雑炊だ。ここで以前教えてもらって作った鉄火味噌も味付けに加えるつもりで考えていた。


干し野菜と干し飯の雑炊に鉄火味噌を加える

 
なんと、これはかなり美味しかった。

あまり期待していなかったからかもしれないが、 いい意味で思い切り裏切られた。
どうやら干し飯は雑炊にバッチリ向いているということだ。
そして干し野菜・干しきのこと一緒にしばらく水につけておくことでいい出汁が出て、風味が良くなる。
また、鉄火味噌によってコクが出て、バランスのいい味になる。

この日は朝から最高にいい気分になってしまった。
朝ごはんってホント大事だよなぁと思う。


これからは干し飯を持って行こう。
炊きたてのご飯が一番だけどね。






2016年4月7日木曜日

雪山ゆるゆる縦走の旅ー保存食と山ごはんー

雪山の旅に向けていろいろな保存食を作ってみた。

雪山は、冷蔵庫あるいは冷凍庫の中にいるようなものなので夏山よりも食材に気を使わずいろいろ持っていくことができる。
最近はフリーズドライなどの食品がたくさん出ていて、軽くてお湯を注ぐだけで食べることができ、しかも美味しいので夏冬問はずそれで済ます人は多いだろう。
私たちもそれらを山に持ち込んでいるが、それだけだとどうも味気なく感じてしまう。
そう、せっかく雪山なのだからいろいろな食材を楽しみたい。調理や食事を含めた、雪山でのくらしを楽しみたいのだ。
なので毎回、食事を楽しむために何かしらの「お楽しみ食材 」を持っていくことにしている。

また、寒いということでカロリーの消耗が激しく、高カロリーなものを必要とする。
例えばそれは、肉や油。
昔からの定番は肉と野菜を油で炒めて冷やし固めたペミカンだろう。溶かしてそのまま食べたりシチューの具などにして使うらしい。
ペミカンの元をたどるとアメリカやカナダインディアンの伝統食らしく、バイソンやヘラジカなどの乾燥させた肉と、クランベリーなどのドライフルーツを動物性脂肪と混ぜて密封して固めた携帯保存食らしい。
わたしは雪山登山式もインディアン式もやったことないのだが、インディアン式のにはとても興味があるので、いつかバイソン肉などが手に入った時にやってみたいとは思っている。

そして今回はバイソン肉なんて手に入らないので、他の保存食について考えてみた。
まず高カロリーで栄養価が高くて美味しいもの、そして保存がきくものとしてレバーパテを作ったことは以前記事に書いたのでそれを参照していただきたい。

また、パテを作ったということは白飯じゃ食べれない。そう、バゲットが主役になるのだ。
しかしバゲットを食べる時、毎回パテじゃ飽きてしまう。
じゃあ他の具材はどうしようかということで、寒い国の代表格(と、わたしが勝手に思っている)ロシアの保存食を参考にしてみる。
寒い国は脂肪を蓄えなければやっていけないだろうし、厳しい環境であるということは食材が手に入る時期も限られてくるだろう。それはつまり、高カロリー保存食文化に長けた国だと思うのだ。

そこで見つけたのがニシンの塩漬け。
肉でも魚でもなんでも保存方法によるが、塩漬けにすることで保存がきく。
さらに塩漬けにしたのをオリーブオイルに漬け込んで保存することで1カ月は持つという。すばらしい保存食だ。食べてみたい。
さっそく作ろうと思ってスーパーでニシンを探したが、見つからない。
やっぱりニシンは寒い地域にしかいないのだろうか、関東ではあまり出回らないのかもしれない。身欠き鰊ならどこにでも売っているんだけどなぁ。

もう諦めてイワシの塩漬け(つまりアンチョビ?)にしようかと思っていた時、ニシンを発見!
しかも生食可能だ。よかったー。

さっそくニシンの塩漬けを作る。



作り方は簡単。
うろこを取って腹を割って内臓を取り、頭を落として三枚におろす。




両面に塩と砂糖をまぶして冷蔵庫で一晩寝かしたのち、水気を拭き取って皮を剥ぎ、丁度いい大きさに切ってオリーブオイルに漬け込んで完成。





ニシンって食べたことある気がしないし、生食でどうなのかなぁとも思いながら作ってみたけれど、美味しい。生で問題なし。バゲットに合うこと間違いなし。



それから何か付け合わせが欲しいよなぁ、バゲットに合わせるなら洋風な感じがいいよなぁ、、ということで、ザワークラウトも作ることに。




ロシアの保存食でもキャベツの発酵漬けという名前で存在するが、今回はザワークラウトとしてのレシピを参考にすることにした。

塩、キャラウェイシード、ローリエ、粒胡椒、唐辛子、セロリなどを水に混ぜた調味液を作り、そこへざく切りにしたキャベツを投入して軽く揉む。
それから保存瓶に移し、重石をし、あとは発酵を待つだけ。
しかし発酵するのには20度ぐらいだと一週間ほど、25度くらいで三日ほどかかる。
夏場だったらほっといてもすぐにできそうだが、冬場でその温度を保つのはなかなか難しいだろう。しかも旅に間に合わせなければならないので、ザワークラウトが入った瓶をストーブの前に置いたり、抱いて寝たりし、どうにか発酵を促す。

発酵する前はただのしょっぱいキャベツだが、日が経つにつれ、少しずつ酸味が出てくる。
旅の前日ぐらいになってようやく酸味も強くなり、ザワークラウトの味となった。
唐辛子の辛味とセロリの味がいいアクセントとなり、我ながら結構イケている。


また、ザワークラウトはそのまま食べても美味しいがスープの具にしても美味しい。
今回のメニューではスープとしても使い、ザワークラウトと他の具材を入れ、塩胡椒で味付けして食べたがいい味になった。


下山する日に、四川風麻婆豆腐の素とベトナムスープフォーの素で作った「麻婆ベトナムスープフォー」に余った食材を入れてしまおうということで、ザワークラウトも投入したのだが、意外にも味がかき消されずに絶妙な風味となり、ここでもいい仕事をしてくれた。

偶然の産物だが、間違いなく「わたし的山ごはんベスト10」には殿堂入りしただろう。
中国とベトナムとドイツの食材が出会ったらこのようなことが起こるのか。。

四川風なので激辛だが、辛味の中に旨みがあり、ヒーヒー言いながらスープも全て飲み干してしまった。

麻婆ベトナムスープフォー(ザワークラウト仕立て)



それから、今回結構重宝したといえば、「サロ」だ。
これもロシアに伝わる保存食で、豚の脂身を塩漬けにし生のまま食べる方法だ。
ロシアの人はこれをバターの代わりにパンに乗せて食べるらしいが他の国にこんな食べ方があるのだろうか。
ベーコンや生ハム、沖縄の塩豚など豚の保存食はいくつかあるが、豚の脂身を生で食べるなんていうのは初めて聞いた。
しかも塩漬けだけで本当に生で食べていいのだろうか?
塩豚は結構強めの塩に漬け込むが、食べ方としては焼いたり煮たりなどし生では食べないはずだ。
生ハムも以前作ったことがあるが、ソミュール液に漬け込み、その後しっかりと水抜きをし熟成を重ねるから生食であって生食でない感じがある。

サロの作り方は至ってシンプルで塩と砂糖、ニンニク、粗挽き胡椒を肉にすり込んでラップで包み冷蔵庫で5日ほど寝かしておくだけなのだ。

本当にこれで食べられるのか??
興味をそそられ作ってみることにした。




作ってみて、生で少しだけ試食してみたが、食べられないことはない。あとはお腹を壊さないかどうかだが、それも特には問題なさそうだった。
また後でわかったが、ロシアでも雑菌が繁殖しにくい寒い時期に食べているらしい。
やはり季節を選ばないと豚の生食は塩漬けでも難しいということだろう。

しかし日本人的な味覚からして、やっぱり豚の脂身は火を通した方が美味しいと思う。
味としてはニンニクや塩胡椒、またオリジナルでハーブシーズニングもすり込んだので焼いて食べたら美味しいに違いない。
重量としては少し重たいが「お楽しみ食材」として半分ほど山に持って行くことにした。

そしてそもそも豚肉なので、サロはどんな料理にでも使え大活躍した。


炒めたサロと干し野菜をパスタの具に







フリーズドライの食品にはほとんど頼らずに、作った保存食を中心に調理することは失敗する可能性もあった。また、質素な食事にもなりかねなかったので不安ではあった。
美味しくなかったり詫びしい食事はチームの士気が下がるので料理担当として責任重大だが(と言っても2人旅なので相方から苦情が出るだけだが)、それでもやってみたくて、やりたいようにやらせてくれた相方には感謝している。

結果的には満足いくものとなったのでホッとした。
無論、もとの素材はいいのでそのまま食べるには美味しいが、それを食材として活かした料理も毎度実験的であったが大概想像以上に美味しくできたので、その都度食事の時間が至福の時となっていた。

「こんなに持って行く必要あるのか?」と疑われていたバゲットも好評を博し、朝も昼も夜も大活躍していた。朝ちょっと食べたい時や、行動食に、また夕飯が足りない時などちょこちょこ食べ、後半では食べる量をセーブしていたほどだ。
夏はカビが心配だが、これも私たちの旅の定番になりそうな予感だ。


雪山での昼食。バゲットにパテとザワークラウト、ピーナッツバター、マヌカハニー。それからチャイ。



2016年4月5日火曜日

雪山ゆるゆる縦走の旅ー見えないすがたー

今回多くの獣たちに出会った。
出会ったと言っても実際に出会えたことは一度もなくて、正確にいうと彼らがここにいたことを証明する、小さな痕跡をいくつも見つけたのだ。

痕跡であってもわたしにとっては心ときめく出会いである。何時間か前に彼らがここを通ったすがたを想像する。どんなだろうか。雪に残された足跡を見つけては、ぴょんぴょん通り過ぎただけなのか、立ち止まって木の皮を食んでいたのか、あちらの方へ行ったのかぁなどと、その見え隠れするすがたを垣間見ていた。
そして彼らの生活圏に少しだけ近づくことができた気がして嬉しくなっていた。




うさぎの足跡。こんなに右往左往してなにやってるんだろう







大きなうさぎの足跡を発見。(タバコと比較)きっと大うさぎなんじゃないかと





これは多分、赤ちゃんうさぎ。まだ上手に飛べないのか、四つ足が揃っていて可愛らしい。






これは鳥のようだ。きれいに一直線に歩いている。一度しか見つけられなかった





これは何者なのか??結構でかいのでうさぎはまずないし、四つ足揃えてるので熊でもない。
たぬきとかかなぁ







ついに発見!熊の足跡!
わりと新しい足跡のようなので、数時間前にここを通ったと思うとドキドキする。熊の残像を垣間見た




うさぎの足跡は随分見つけた。
今回うさぎのいる森に行きたいと密かに思っていたので、思いのほかうさぎパラダイスで驚きとときめきの連続であった。
実はうさぎの足跡を発見したのも今回が初めてだ。野うさぎはなかなかお目にかかれないと思っていたが、いるところにはいるんだなあと。
こんなに足跡があるならひょんなところで本当に出会えてしまうのではないかとさらなる期待をせずにはいられなかったが、残念ながらそれはなかった。

うさぎの糞もいたるところに転がっていた。
手のひらにすくうと、少し湿り気があるが軽く、コロコロとする。
指で潰してみると簡単に崩れ、粉々の木の屑のようなものになった。
鼻に近づけてみると、わずかに草木の香りがする。
木の皮や、ちょこんと出た、草の根なんかを食んでいるのだろうか。







手のひらの粉々になったうさぎの糞はさらりとし、風に晒されていった。

雪山ゆるゆる縦走の旅ー住まいのことー

わたしたちは今のところ、登頂を目的としたスポーティな登山をするのではなく、山で過ごすこと自体を楽しんでいるところがある。

雪山もまた同じで、雪山で過ごすことを楽しみたくて昨年は初めてイグルーと雪洞で過ごすために雪山へ入った。
過ごしやすい雪の家を作ることは時間と体力を要し、それはそれは大変だったのだが、そこで過ごした時間は今でも甘美な記憶として脳裏に漂っている。
それをもう一度再現したいという思いがあった。

また、甘美な記憶であるとともに、心残りもある。
前回、雪洞は2度作ったのだが、どちらも理想形にはならず、言うなれば失敗したのだ。
そう、どちらかといえばリベンジしたかったのかもしれない。

今回、雪洞を作れるという保障はなかった。
なぜなら今年は暖冬で降雪量が少ないと聞いていたし、3月半ばに入ると雪質も変わり雪洞作りにはおそらく向かないのだ。
なので、本気でリベンジしたければ今年じゃなかっただろうし時期もちゃんと考えるべきだっただろう。

時期に関してはお互いの予定をすり合わせなければならなかったので致し方ない。
プランについては他にも幾つか立てたのだが、どうも気乗りしなかったということがある。
この雪山行きへ決めたのはほかにもいくつか理由はあるのだが、どうやら条件が悪くても今年雪洞作りをリベンジしとかなきゃ自分が納得できなかったというのが大きいかもしれない。


計画としては最高3箇所で雪洞作りができるプランを立てたがそれは絶対ではなく、無理をせず、最低1回作れればいいという考えだった。
そして雪洞を作らない日はツェルトに泊まることになる。
ツェルトで雪山に泊まることを以前やったことがあるので想像しただけで身震いしてしまうのだが、ただでさえ重たい雪山縦走の装備に2人用テントが加わると、また随分と重たくなってしまう。普通は雪山縦走と言ったらテントこそ重要なんだろうけれど、重さと寒さを天秤にかけた結果、ツェルトをとることになってしまったのだ。低山の春山だからそんな考えに至れるのだろうが、、。





山に入った初日は早速ツェルトで一泊した。
雪洞が作れるだろうとあらかじめ予測を立てていたポイントがいくつかあり、最初の雪洞ポイントへたどり着く前にどこかで一泊しなければならなかったのだ。
地図には近場に山小屋が記されていて、ネットの情報に冬季も開けていると書かれていたのでそれを期待していたのだが、平日だったからか残念ながら閉まっていた。
そうとなれば暗くなる前にどこかにツェルトを張るしかなかった。
ツェルトで寝ることも想像してはいたのだが、実は山小屋に泊まれることを結構期待していたので泊まれないとわかった途端、足がずっしりと重くなってしまった。
今朝まで居心地のいい温泉宿で湯に浸かり、ぬくぬくとやっていたのが懐かしく思える。
寒々とした雪が降り続く雪山はいつ陽が落ちたのかもわからないまま、ゆっくりと薄暗くなっていた。
手足は冷たく、体は重たい。
できればもう一歩も歩きたくないが、そうはいかなくなってしまった。
今晩の寝床を探して建てなければならない。

もう歩きたくないと言っている自分の心と体を叱咤し、木々へ分け入りツェルトを建てられる、なるたけ平な場所を探す。
そうして見つけた場所をさらに平にするためにスコップで雪を削り、スノーシューで雪面を踏みつけて均す。
そうこうしているうちに暗くなってしまったのでヘッドライトを取り出して、ツェルトを幕営する。
軽量化のためペグは持ってきていないので、木の枝とスノーシューをペグにし、トレッキングポールを支柱とした。
張り終えた頃には真っ暗で、こんな寒々とした暗闇では炊事する気になれなかったので二人では狭すぎるツェルトの中に必要最低限のもの全てと、自分たちの体をそそくさと押し込み、炊事も中で行った。
食事を終えてからは素早く寝支度をし、すんなりと眠ってしまった。
寒くて眠れないかと思いきや、意外にもよく眠れたように思う。相当疲れていたのだろうか。


次の日は雪も止み、陽も差してくれて景色が美しかった。
おかげで目は眩み、サングラスが大活躍した。

暗いうちから起きだして明るくなる頃に発ったので時間の余裕が充分にあり、ゆったりと、眩い春の森を楽しみながら歩いていた。






ゆっくりお昼の休憩もとってしばらくして、ようやく雪洞ポイント付近にやってきた。
低い山が連なった地帯があり、そこへできた雪庇の下に作ろうと思っていたのだ。



思わず感動してしまった。
これがいわゆる、雪庇の下の斜面に雪洞が作れる条件なのか、と。
それなりに急な斜面で、上部にはモコモコとした雪庇ができている。雪崩などが起こるようなものではないのだが、近寄ってみると意外に大きく迫り来るような威圧感も感じられる。

本当は、山と山との間のコルの下あたりに作る予定だったのだが、その手前から現れていた雪庇の下の斜面でも充分なのでは?むしろこの先に行ったらこれより良い条件でないかもしれない、、などと考え、2人で話し合った末、このあたりで作ってみることにしたのだ。
時間的にも2時過ぎと、ちょうどいい時間だった。

しかし、まずは掘ってみなければわからない、、ということで相方が雪庇の近くまで近寄り、斜面をサクサクと掘ってみる。
良さそうだ。硬すぎず、ふわふわすぎない、雪洞が作れそうな雪。



そうと決まれば二人の荷物を作業場所まで荷揚げし、合羽を着、ゴム手袋をし、スコップを組み立てて穴掘りの準備をする。


はじめは荷物置き場や座る場所、足場なんかを作ったりして、現場環境を整える。
何しろ元は何の跡もないきれいな斜面なので、平な面を出してやらないと荷物は麓まで転げ落ちてしまう。
また、雪洞を掘るのには最低でも3時間はかかるだろう。いや、前回のことを思い起こすともっと長丁場になることも考えられる。
そうなると、作業環境を整えることが重要となる。

それからまず、スロープを作っていく。
穴掘りで大量の土砂が出るのと同じように、雪洞作りには大量の捨て雪が出る。
ひたすら掘り出しては捨てるので、雪が溜まらないよう緩やかな傾斜のスロープを作ってそこから流し、山の傾斜の下へ落とすのだ。





右側が休憩スペース


こんな感じにどんどん雪が出る




今回は当初、ベーシックスタイル(?)のビーバーの巣穴のような、トンネルを作ったのち、居住スペースを一段高くした雪洞を作りたかった。そうすることで外からの冷気がトンネルの下部に溜まり、居住スペースは比較的暖かいはずなのだ。
しかもわたしのいびきがうるさくて眠れないとの苦情があり(念のため伝えておくが花粉症のため鼻づまりがひどく、寝てるときは口呼吸になってしまうのだ。また、歩いている時はどういうわけか全く鼻が詰まらないことが分かった。)、足合わせにして縦に並んで眠りたいという構想があったので余計に広く作る必要があった。


作りたい雪洞のイメージ図




どこまで進んでも雪は硬くなっておらず、スコップで掘り進められた。また、作業効率を上げるためにノコギリでもブロック状に切り出していく。

途中までは交代で作業をしていたが陽が暮れ始め、そうしていられなくなってきた。じっとしていると冷えるので動いていたいということもあった。
その頃には中に2人入って作業できる広さになっていたので、後半戦は2人で進めていく。
その頃にはすでに3時間が経過していた。しかしまだ半分も掘れていない。
どうやら作る大きさと雪質を見誤ったのかもしれない。
このままだと完成には相当時間がかかってしまうので見切りをつけ、トンネルは伸ばさずにすぐに段差を作ることにし、左右を広げる計画も断念することにした。





そしてくたくたのヘトヘトになり、どうにか完成させることはできた。
結局のところ、8時間もかけてしまった。その割にやりたいことはあまりできずにくたびれて終わってしまった。天井と空間に余裕を持たせることにこだわってしまったから他が疎かになってしまったのだと思う。
それから、ビーバーの巣穴型の雪洞は想像以上に時間がかかって難しいということだ。
それを作るなら、もう少し天井を低くし、ひとまわり小さくした方が良かったように思う。

それでも、広い空間はツェルトと違って居心地がいい。
足を伸ばせ、背中を伸ばすことができるのでちゃんと寛ぐことができる。
いびき対策に関しては、少し空間が広いため離れて寝れたことと、顔と足とを別方向に向けて寝たので相方は熟睡できたようだ。(ツェルトでも逆向きに寝ていればいいという話だが)




ただ、昨年作った住まいの方が良かった印象なのはなぜだろうか。
今回は何にも阻まれずに作れたというのに。何事も初めの記憶の方が鮮烈で好印象になってしまうのだろうか。。

また、段差を作ったのに放射冷却を感じ、ホッカイロなしでは眠れなかった。(相方はそんなことなかったらしいが)
そのこともなぜなのか、よくわからなかった。雪質と広すぎる空間が良くなかったのだろうか。あとは立地なのか、単純に疲れていたからか。

しかしそんなことを言いつつも、日が昇って明るくなるまで、長いこと、爆睡した。
起きても体が疲れている。
あと1日、ダラダラしながらここで過ごす時間もあるし体としてはできればそうしていたいと言っているのだが、迷った挙句、先を進むことにした。
天気が良くて、歩かないことが勿体無いように感じたのだ。

8時間もかけて作った雪洞を手放すのは惜しいが、なぜだかそんなに愛着もなかったのでこの日歩かないことの方が後々後悔してしまう気がする。

天気に駆り立てられ、わたしたちは雪洞を後にした。