2016年4月5日火曜日

雪山ゆるゆる縦走の旅ー住まいのことー

わたしたちは今のところ、登頂を目的としたスポーティな登山をするのではなく、山で過ごすこと自体を楽しんでいるところがある。

雪山もまた同じで、雪山で過ごすことを楽しみたくて昨年は初めてイグルーと雪洞で過ごすために雪山へ入った。
過ごしやすい雪の家を作ることは時間と体力を要し、それはそれは大変だったのだが、そこで過ごした時間は今でも甘美な記憶として脳裏に漂っている。
それをもう一度再現したいという思いがあった。

また、甘美な記憶であるとともに、心残りもある。
前回、雪洞は2度作ったのだが、どちらも理想形にはならず、言うなれば失敗したのだ。
そう、どちらかといえばリベンジしたかったのかもしれない。

今回、雪洞を作れるという保障はなかった。
なぜなら今年は暖冬で降雪量が少ないと聞いていたし、3月半ばに入ると雪質も変わり雪洞作りにはおそらく向かないのだ。
なので、本気でリベンジしたければ今年じゃなかっただろうし時期もちゃんと考えるべきだっただろう。

時期に関してはお互いの予定をすり合わせなければならなかったので致し方ない。
プランについては他にも幾つか立てたのだが、どうも気乗りしなかったということがある。
この雪山行きへ決めたのはほかにもいくつか理由はあるのだが、どうやら条件が悪くても今年雪洞作りをリベンジしとかなきゃ自分が納得できなかったというのが大きいかもしれない。


計画としては最高3箇所で雪洞作りができるプランを立てたがそれは絶対ではなく、無理をせず、最低1回作れればいいという考えだった。
そして雪洞を作らない日はツェルトに泊まることになる。
ツェルトで雪山に泊まることを以前やったことがあるので想像しただけで身震いしてしまうのだが、ただでさえ重たい雪山縦走の装備に2人用テントが加わると、また随分と重たくなってしまう。普通は雪山縦走と言ったらテントこそ重要なんだろうけれど、重さと寒さを天秤にかけた結果、ツェルトをとることになってしまったのだ。低山の春山だからそんな考えに至れるのだろうが、、。





山に入った初日は早速ツェルトで一泊した。
雪洞が作れるだろうとあらかじめ予測を立てていたポイントがいくつかあり、最初の雪洞ポイントへたどり着く前にどこかで一泊しなければならなかったのだ。
地図には近場に山小屋が記されていて、ネットの情報に冬季も開けていると書かれていたのでそれを期待していたのだが、平日だったからか残念ながら閉まっていた。
そうとなれば暗くなる前にどこかにツェルトを張るしかなかった。
ツェルトで寝ることも想像してはいたのだが、実は山小屋に泊まれることを結構期待していたので泊まれないとわかった途端、足がずっしりと重くなってしまった。
今朝まで居心地のいい温泉宿で湯に浸かり、ぬくぬくとやっていたのが懐かしく思える。
寒々とした雪が降り続く雪山はいつ陽が落ちたのかもわからないまま、ゆっくりと薄暗くなっていた。
手足は冷たく、体は重たい。
できればもう一歩も歩きたくないが、そうはいかなくなってしまった。
今晩の寝床を探して建てなければならない。

もう歩きたくないと言っている自分の心と体を叱咤し、木々へ分け入りツェルトを建てられる、なるたけ平な場所を探す。
そうして見つけた場所をさらに平にするためにスコップで雪を削り、スノーシューで雪面を踏みつけて均す。
そうこうしているうちに暗くなってしまったのでヘッドライトを取り出して、ツェルトを幕営する。
軽量化のためペグは持ってきていないので、木の枝とスノーシューをペグにし、トレッキングポールを支柱とした。
張り終えた頃には真っ暗で、こんな寒々とした暗闇では炊事する気になれなかったので二人では狭すぎるツェルトの中に必要最低限のもの全てと、自分たちの体をそそくさと押し込み、炊事も中で行った。
食事を終えてからは素早く寝支度をし、すんなりと眠ってしまった。
寒くて眠れないかと思いきや、意外にもよく眠れたように思う。相当疲れていたのだろうか。


次の日は雪も止み、陽も差してくれて景色が美しかった。
おかげで目は眩み、サングラスが大活躍した。

暗いうちから起きだして明るくなる頃に発ったので時間の余裕が充分にあり、ゆったりと、眩い春の森を楽しみながら歩いていた。






ゆっくりお昼の休憩もとってしばらくして、ようやく雪洞ポイント付近にやってきた。
低い山が連なった地帯があり、そこへできた雪庇の下に作ろうと思っていたのだ。



思わず感動してしまった。
これがいわゆる、雪庇の下の斜面に雪洞が作れる条件なのか、と。
それなりに急な斜面で、上部にはモコモコとした雪庇ができている。雪崩などが起こるようなものではないのだが、近寄ってみると意外に大きく迫り来るような威圧感も感じられる。

本当は、山と山との間のコルの下あたりに作る予定だったのだが、その手前から現れていた雪庇の下の斜面でも充分なのでは?むしろこの先に行ったらこれより良い条件でないかもしれない、、などと考え、2人で話し合った末、このあたりで作ってみることにしたのだ。
時間的にも2時過ぎと、ちょうどいい時間だった。

しかし、まずは掘ってみなければわからない、、ということで相方が雪庇の近くまで近寄り、斜面をサクサクと掘ってみる。
良さそうだ。硬すぎず、ふわふわすぎない、雪洞が作れそうな雪。



そうと決まれば二人の荷物を作業場所まで荷揚げし、合羽を着、ゴム手袋をし、スコップを組み立てて穴掘りの準備をする。


はじめは荷物置き場や座る場所、足場なんかを作ったりして、現場環境を整える。
何しろ元は何の跡もないきれいな斜面なので、平な面を出してやらないと荷物は麓まで転げ落ちてしまう。
また、雪洞を掘るのには最低でも3時間はかかるだろう。いや、前回のことを思い起こすともっと長丁場になることも考えられる。
そうなると、作業環境を整えることが重要となる。

それからまず、スロープを作っていく。
穴掘りで大量の土砂が出るのと同じように、雪洞作りには大量の捨て雪が出る。
ひたすら掘り出しては捨てるので、雪が溜まらないよう緩やかな傾斜のスロープを作ってそこから流し、山の傾斜の下へ落とすのだ。





右側が休憩スペース


こんな感じにどんどん雪が出る




今回は当初、ベーシックスタイル(?)のビーバーの巣穴のような、トンネルを作ったのち、居住スペースを一段高くした雪洞を作りたかった。そうすることで外からの冷気がトンネルの下部に溜まり、居住スペースは比較的暖かいはずなのだ。
しかもわたしのいびきがうるさくて眠れないとの苦情があり(念のため伝えておくが花粉症のため鼻づまりがひどく、寝てるときは口呼吸になってしまうのだ。また、歩いている時はどういうわけか全く鼻が詰まらないことが分かった。)、足合わせにして縦に並んで眠りたいという構想があったので余計に広く作る必要があった。


作りたい雪洞のイメージ図




どこまで進んでも雪は硬くなっておらず、スコップで掘り進められた。また、作業効率を上げるためにノコギリでもブロック状に切り出していく。

途中までは交代で作業をしていたが陽が暮れ始め、そうしていられなくなってきた。じっとしていると冷えるので動いていたいということもあった。
その頃には中に2人入って作業できる広さになっていたので、後半戦は2人で進めていく。
その頃にはすでに3時間が経過していた。しかしまだ半分も掘れていない。
どうやら作る大きさと雪質を見誤ったのかもしれない。
このままだと完成には相当時間がかかってしまうので見切りをつけ、トンネルは伸ばさずにすぐに段差を作ることにし、左右を広げる計画も断念することにした。





そしてくたくたのヘトヘトになり、どうにか完成させることはできた。
結局のところ、8時間もかけてしまった。その割にやりたいことはあまりできずにくたびれて終わってしまった。天井と空間に余裕を持たせることにこだわってしまったから他が疎かになってしまったのだと思う。
それから、ビーバーの巣穴型の雪洞は想像以上に時間がかかって難しいということだ。
それを作るなら、もう少し天井を低くし、ひとまわり小さくした方が良かったように思う。

それでも、広い空間はツェルトと違って居心地がいい。
足を伸ばせ、背中を伸ばすことができるのでちゃんと寛ぐことができる。
いびき対策に関しては、少し空間が広いため離れて寝れたことと、顔と足とを別方向に向けて寝たので相方は熟睡できたようだ。(ツェルトでも逆向きに寝ていればいいという話だが)




ただ、昨年作った住まいの方が良かった印象なのはなぜだろうか。
今回は何にも阻まれずに作れたというのに。何事も初めの記憶の方が鮮烈で好印象になってしまうのだろうか。。

また、段差を作ったのに放射冷却を感じ、ホッカイロなしでは眠れなかった。(相方はそんなことなかったらしいが)
そのこともなぜなのか、よくわからなかった。雪質と広すぎる空間が良くなかったのだろうか。あとは立地なのか、単純に疲れていたからか。

しかしそんなことを言いつつも、日が昇って明るくなるまで、長いこと、爆睡した。
起きても体が疲れている。
あと1日、ダラダラしながらここで過ごす時間もあるし体としてはできればそうしていたいと言っているのだが、迷った挙句、先を進むことにした。
天気が良くて、歩かないことが勿体無いように感じたのだ。

8時間もかけて作った雪洞を手放すのは惜しいが、なぜだかそんなに愛着もなかったのでこの日歩かないことの方が後々後悔してしまう気がする。

天気に駆り立てられ、わたしたちは雪洞を後にした。

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