雪山は、冷蔵庫あるいは冷凍庫の中にいるようなものなので夏山よりも食材に気を使わずいろいろ持っていくことができる。
最近はフリーズドライなどの食品がたくさん出ていて、軽くてお湯を注ぐだけで食べることができ、しかも美味しいので夏冬問はずそれで済ます人は多いだろう。
私たちもそれらを山に持ち込んでいるが、それだけだとどうも味気なく感じてしまう。
そう、せっかく雪山なのだからいろいろな食材を楽しみたい。調理や食事を含めた、雪山でのくらしを楽しみたいのだ。
なので毎回、食事を楽しむために何かしらの「お楽しみ食材 」を持っていくことにしている。
また、寒いということでカロリーの消耗が激しく、高カロリーなものを必要とする。
例えばそれは、肉や油。
昔からの定番は肉と野菜を油で炒めて冷やし固めたペミカンだろう。溶かしてそのまま食べたりシチューの具などにして使うらしい。
ペミカンの元をたどるとアメリカやカナダインディアンの伝統食らしく、バイソンやヘラジカなどの乾燥させた肉と、クランベリーなどのドライフルーツを動物性脂肪と混ぜて密封して固めた携帯保存食らしい。
わたしは雪山登山式もインディアン式もやったことないのだが、インディアン式のにはとても興味があるので、いつかバイソン肉などが手に入った時にやってみたいとは思っている。
そして今回はバイソン肉なんて手に入らないので、他の保存食について考えてみた。
まず高カロリーで栄養価が高くて美味しいもの、そして保存がきくものとしてレバーパテを作ったことは以前記事に書いたのでそれを参照していただきたい。
また、パテを作ったということは白飯じゃ食べれない。そう、バゲットが主役になるのだ。
しかしバゲットを食べる時、毎回パテじゃ飽きてしまう。
じゃあ他の具材はどうしようかということで、寒い国の代表格(と、わたしが勝手に思っている)ロシアの保存食を参考にしてみる。
寒い国は脂肪を蓄えなければやっていけないだろうし、厳しい環境であるということは食材が手に入る時期も限られてくるだろう。それはつまり、高カロリー保存食文化に長けた国だと思うのだ。
そこで見つけたのがニシンの塩漬け。
肉でも魚でもなんでも保存方法によるが、塩漬けにすることで保存がきく。
さらに塩漬けにしたのをオリーブオイルに漬け込んで保存することで1カ月は持つという。すばらしい保存食だ。食べてみたい。
さっそく作ろうと思ってスーパーでニシンを探したが、見つからない。
やっぱりニシンは寒い地域にしかいないのだろうか、関東ではあまり出回らないのかもしれない。身欠き鰊ならどこにでも売っているんだけどなぁ。
もう諦めてイワシの塩漬け(つまりアンチョビ?)にしようかと思っていた時、ニシンを発見!
しかも生食可能だ。よかったー。
さっそくニシンの塩漬けを作る。
作り方は簡単。
うろこを取って腹を割って内臓を取り、頭を落として三枚におろす。
両面に塩と砂糖をまぶして冷蔵庫で一晩寝かしたのち、水気を拭き取って皮を剥ぎ、丁度いい大きさに切ってオリーブオイルに漬け込んで完成。
ニシンって食べたことある気がしないし、生食でどうなのかなぁとも思いながら作ってみたけれど、美味しい。生で問題なし。バゲットに合うこと間違いなし。
それから何か付け合わせが欲しいよなぁ、バゲットに合わせるなら洋風な感じがいいよなぁ、、ということで、ザワークラウトも作ることに。
ロシアの保存食でもキャベツの発酵漬けという名前で存在するが、今回はザワークラウトとしてのレシピを参考にすることにした。
塩、キャラウェイシード、ローリエ、粒胡椒、唐辛子、セロリなどを水に混ぜた調味液を作り、そこへざく切りにしたキャベツを投入して軽く揉む。
それから保存瓶に移し、重石をし、あとは発酵を待つだけ。
しかし発酵するのには20度ぐらいだと一週間ほど、25度くらいで三日ほどかかる。
夏場だったらほっといてもすぐにできそうだが、冬場でその温度を保つのはなかなか難しいだろう。しかも旅に間に合わせなければならないので、ザワークラウトが入った瓶をストーブの前に置いたり、抱いて寝たりし、どうにか発酵を促す。
発酵する前はただのしょっぱいキャベツだが、日が経つにつれ、少しずつ酸味が出てくる。
旅の前日ぐらいになってようやく酸味も強くなり、ザワークラウトの味となった。
唐辛子の辛味とセロリの味がいいアクセントとなり、我ながら結構イケている。
また、ザワークラウトはそのまま食べても美味しいがスープの具にしても美味しい。
今回のメニューではスープとしても使い、ザワークラウトと他の具材を入れ、塩胡椒で味付けして食べたがいい味になった。
下山する日に、四川風麻婆豆腐の素とベトナムスープフォーの素で作った「麻婆ベトナムスープフォー」に余った食材を入れてしまおうということで、ザワークラウトも投入したのだが、意外にも味がかき消されずに絶妙な風味となり、ここでもいい仕事をしてくれた。
偶然の産物だが、間違いなく「わたし的山ごはんベスト10」には殿堂入りしただろう。
中国とベトナムとドイツの食材が出会ったらこのようなことが起こるのか。。
四川風なので激辛だが、辛味の中に旨みがあり、ヒーヒー言いながらスープも全て飲み干してしまった。
麻婆ベトナムスープフォー(ザワークラウト仕立て) |
それから、今回結構重宝したといえば、「サロ」だ。
これもロシアに伝わる保存食で、豚の脂身を塩漬けにし生のまま食べる方法だ。
ロシアの人はこれをバターの代わりにパンに乗せて食べるらしいが他の国にこんな食べ方があるのだろうか。
ベーコンや生ハム、沖縄の塩豚など豚の保存食はいくつかあるが、豚の脂身を生で食べるなんていうのは初めて聞いた。
しかも塩漬けだけで本当に生で食べていいのだろうか?
塩豚は結構強めの塩に漬け込むが、食べ方としては焼いたり煮たりなどし生では食べないはずだ。
生ハムも以前作ったことがあるが、ソミュール液に漬け込み、その後しっかりと水抜きをし熟成を重ねるから生食であって生食でない感じがある。
サロの作り方は至ってシンプルで塩と砂糖、ニンニク、粗挽き胡椒を肉にすり込んでラップで包み冷蔵庫で5日ほど寝かしておくだけなのだ。
本当にこれで食べられるのか??
興味をそそられ作ってみることにした。
作ってみて、生で少しだけ試食してみたが、食べられないことはない。あとはお腹を壊さないかどうかだが、それも特には問題なさそうだった。
また後でわかったが、ロシアでも雑菌が繁殖しにくい寒い時期に食べているらしい。
やはり季節を選ばないと豚の生食は塩漬けでも難しいということだろう。
しかし日本人的な味覚からして、やっぱり豚の脂身は火を通した方が美味しいと思う。
味としてはニンニクや塩胡椒、またオリジナルでハーブシーズニングもすり込んだので焼いて食べたら美味しいに違いない。
重量としては少し重たいが「お楽しみ食材」として半分ほど山に持って行くことにした。
そしてそもそも豚肉なので、サロはどんな料理にでも使え大活躍した。
炒めたサロと干し野菜をパスタの具に |
フリーズドライの食品にはほとんど頼らずに、作った保存食を中心に調理することは失敗する可能性もあった。また、質素な食事にもなりかねなかったので不安ではあった。
美味しくなかったり詫びしい食事はチームの士気が下がるので料理担当として責任重大だが(と言っても2人旅なので相方から苦情が出るだけだが)、それでもやってみたくて、やりたいようにやらせてくれた相方には感謝している。
結果的には満足いくものとなったのでホッとした。
無論、もとの素材はいいのでそのまま食べるには美味しいが、それを食材として活かした料理も毎度実験的であったが大概想像以上に美味しくできたので、その都度食事の時間が至福の時となっていた。
「こんなに持って行く必要あるのか?」と疑われていたバゲットも好評を博し、朝も昼も夜も大活躍していた。朝ちょっと食べたい時や、行動食に、また夕飯が足りない時などちょこちょこ食べ、後半では食べる量をセーブしていたほどだ。
夏はカビが心配だが、これも私たちの旅の定番になりそうな予感だ。
雪山での昼食。バゲットにパテとザワークラウト、ピーナッツバター、マヌカハニー。それからチャイ。 |
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