2016年5月12日木曜日

胃腸炎からの旅

 先日、重度の胃腸炎になってしまった。
重度というのはあくまでもわたしの中での基準であるが、モーレツな腹痛と下痢に襲われ、何か食べるたびに、十数分後にはその症状が襲い、それを何度も繰り返す。
次第に何も食べられなくなり、お尻から水が出てくるようになる。
 その日の夕方からそんな状態となり、徐々に深刻になってゆく。
 夜、悪寒がして体がだるくなってきた。この状態に覚えがある。熱が出る時の前ぶれだ。
布団に入る頃には明らかに熱が出ているのがわかった。悪寒がするのに体が発熱している。布団の中がサウナのようにむわっと暑い。けれども顔まで布団をしっかり被っていないと寒い。体が異常であることが朦朧としながらもよくわかる。
 夜中の間も何時間かおきに急激な腹痛で起こされトイレに駆け込む。布団から出ると背中に寒気が走り、体がふらふらとする。頭がいたい。

 朝になってもたびたび腹痛に襲われる。もう出せるものはないのに。体温は38度。高熱が続く。
 原因は一体何だったのだろうか。なにか食べ物に当たった覚えはない。しいて言えばランニングをしに行った公園の水を飲んだぐらいだろうか。。
 それともなければ食生活が乱れていたからか。最近糖質とグルテンを取り過ぎていたきらいがある。
 私は日頃、糖質中毒なところがあり、気をつけていないと取り過ぎてしまっていることが多々あるようだ。白砂糖には依存性があるというが私はまんまと毒されているのだ。以前も菓子パンなどを常食していた頃に胃腸を壊したことがある。
 今の生活状態においてストレス性ということは考えられないので今回も糖質を過剰摂取していた、乱れた食生活が原因のように思う。
 しかし今まで高熱が出るなんてことはなかった。いや、一度だけある。

 今から7年前、私は初めての海外旅行でインドへ行った。インドは日本に比べたら不衛生だ。水道水は飲めないし、聖なるガンジス河では死体を流し、服を洗濯し、沐浴をする。通りに並ぶ屋台は、取り替えているのか定かではない油で揚げた揚げ物が売られている。
 そういったものを食べていたからか毎日お腹はなんだか壊していた。しかしあまり気にはせず旅を楽しんでいた。
 ある日、歯を磨いていた。気を使う人は飲料水を使ったりするが、私はずっと水道水で口をゆすいでいた。そして、誤って水を飲んでしまった。しかし微量だし問題ないだろうと軽く考えていた。すると数十分後、急激な腹痛が襲ってきた。ガンジス河のほとりで佇んでいたときに。
 みるみると体が熱くなってゆく。体温計なんて持っていなかったので正確な体温はわからなかったが、明らかに高熱が出ていることが自分の体を通して感じられた。
 その日は移動の予定だったのでフラフラになった体を支えながら移動し、寝台列車に体を横たえた。日本から持ってきたバファリンと、現地の飲料水とバナナをお腹に入れ、次の街に着くまでの12時間、私は深い眠りに落ちていた。目覚めた時には嘘のようにスッキリと熱は引き、完全に回復していた。その後の旅は問題なく最後まで楽しんだ。
 しかし日本に帰ってきてから胃腸炎のくせがついてしまった。食が乱れたり体調が荒れるとすぐ胃腸に影響が出る。もしかしたらインドで細菌をもらってきてしまったのかもしれないと、今日まで疑っている。

 そして今回の高熱。どうも怪しい。インドでのことが思い起こされる。
 熱も下痢もおさまる兆しがない。このまま放っておいたらどうなってしまうのだろうか。明後日には駅伝を控えている。その2日後には旅に出る。それまでにはどうにか治したい。
 しかし自分の体の状態がよく分からない。先が読めない。この先1週間でも寝ていられるならとりあえずほっとくだろう。しかしそうもいかない状態が待ち受けている。
 他人の力に頼るしかない。とにかく現状を打開したかった。


 平日昼間の病院は混む。お年寄りがたくさんいる。私はお年寄りに紛れ込み、ふわふわとした意識で重い頭を支えながら私の番を待つ。
 胃腸炎かもしれないと伝えたら、マスクを渡され、車椅子用の完全個室トイレを使うよう指示された。待ち時間が長いので、看護師さんが気をつかってくれ、空いている診療ベッドで休んでいていいと言ってくれた。なんという待遇だろう。半分隔離のような感じはあるが、胃腸炎というだけでこんなに特別視されるなんて。体調としてはインフルエンザと似たようなものなのに。いや、ちょっと違うか。
 実は病院にやってきてからしばらく腹痛が治っていて横になるほどでもなかったのだが、ここは好意に甘えて長い長い待ち時間を休ませてもらうことにした。頭痛が辛いには辛かったし。

 一度目の診察。
医者は高熱を疑った。胃腸炎でここまでの高熱が出るのは怪しいと。
ええ、私もそう思います。
 医者はインフルエンザと疑う。
え?そっち?!
 自分としてはそんな気は全くない。これは胃腸炎が濃厚と思うのだ。だからその線で正体を暴いてほしいのに。
しかし医者を頼って来た身。ここはお医者の考えに従ってみるしかない。
 インフルエンザの検査をする。鼻の穴の奥まで細い綿棒を突っ込んで、グリグリっとやるやつだ。あれは結構痛い。小さい子なんかは泣いてしまうが、その気持ちはわかる。私はいい歳なのでさすがに泣きはしないが、苦痛ではある。
 そうしてまた、結果が出るまで待たされる。

 二度目の診察。
結果は陰性。やっぱりね。インフルエンザとは違うものだとはわかっていた。
 そうなると、今度は高校生の時に薬で散らした盲腸に疑いがかかる。
 
 高校生の頃、盲腸になったことがある。
 私は食欲が旺盛だった。育ち盛りのうえ運動部だったこともあり、運動量と消費量が多い分、ずいぶんと食べていた。一回の食事にお茶碗三杯は軽く食べていたし、三食の食事に加え、二回ほど間食もしていた。それが一時歯止めがきかなくなり、度の超えた暴食をしていた時期があった。そしてついには胃腸が悲鳴をあげたのか、盲腸になってしまった。
 その時は本当に死ぬかと思うほどの激痛だった。痛くて痛くてじっとしていられないのだ。しかし私のお腹の中で暴れた部分は手術するものでもないらしく、お腹を切らずに薬で散らすことで収まった。それはまた再発する可能性があるという条件つきなのだが。。

 その可能性に目が向けられたのだ。
私は盲腸を経験し、その後何度か再発の可能性があることを今まで感じてきた。
 しかし、今回はどうもそれじゃない気がする。まず、腹痛の場所が違うのだ。でも先生はその方向性を疑ってかかっている。そうなると私もそんな気がしてきてしまうじゃないの。。
 先生に促され、検査することになった。採血をし、エコーでお腹の様子を診てもらう。
 ぬるぬるとしたやつが当てられて、お腹の上で転がされる。これ、知ってる。以前も盲腸の再発を疑われ、同じ検査を受けたのだ。結果は陰性だったが。。

 そして三度目の診察。
またしても陰性。先生、やっぱり違うじゃないかあ。。
 そして結局胃腸炎ということで落ち着く。まあ何かしらの細菌が原因なんでしょうね、と。しかしその先を暴く感じではないらしい。えーー、、私はそれを知りたくて先生に頼ったのに。。
 解熱剤やら、痛み止め、下痢止め、胃腸の炎症を治す薬を処方してもらった。
 「私、明後日に駅伝に出るんですが、それまでに治りますかねえ、、?」
そんなこと先生に聞いても仕方がないだろう。自分の体なんだから。でも、具体的な答えが結局出ずじまいで、これがおさまるのかも分からなくて、不安だったのだ。ぽろりと口から出てしまった。
 「うーん、明後日だからなんとも言えないねえ。走るなとは言わないけど、自分の判断で」
 そりゃそうだ。

 いろんな検査をして思った以上にお金がかかった。朝一で病院へ行き、帰る頃には午後になっていた。おまけに具体的な結果がわからなかった。なんだこれ。
 まあ病院てそんなものだよな。たとえお医者でも他人の体のことは医者として客観的にしか診れないのだし、自己管理ができない私がまずいけないのだし。薬を飲んでこの状態が良くなれば十分助かる。

 薬のおかげで熱はすんなりと下がった。お腹の状態はすぐに良くならないが、試しにジョギングしてみると、意外と走れるかな、、?
 しかし当日、たとえ3キロといえど甘く考えてはならなくて、胃腸炎も甘く見てはならなかった。
 私は敢無く棄権し、仲間が私の分まで走ってくれることとなった。自分の自己管理の出来なさのせいで。。申し訳ない。。

 その2日後、私は胃腸炎が完治しないまま旅に出ることとなった。お粥やすりおろしりんごから始め、少しずつ食べられるものを増やしていく途中だった。これは食べてもすぐお腹が痛くならないな、あ、これはダメだ、全部出て行ってしまった、、などと実験しながらお腹の調子を探っていた。
 まだまだ食べられないものが多い中、旅に出るなんて初めてだ。
旅の途中で体調を崩して食べられなくなったことはあったっけ。
 
 旅しながら体を治していく。旅が、体を見直すいい機会になったりして。

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