海から上がるとすぐに全身が震えだした。
体に当たる風が冷たい。
荷物を置いている岩場に戻り、保温用に持ってきた化繊ジャケットを羽織る。
それでも震えは止まらないので岩の上に俯せに寝転がってみた。
岩が溜め込んだ太陽光の熱を感じる。
あたたかい。
風は強いが幸い陽は照っていて、寝転がっていると岩の熱と太陽の日差しが体を少しずつあたためてくれる。
そうして体を暖めながら岩場をごろごろし、目先にある潮溜まりの中をなんとなく眺めていた。
すると、岩の間を長いなにかがにょろっと通った。
ぼーっとしていたので何者なのか分からずたじろいだ。
近づいてよく見るとウツボだった。
これは仕留めるチャンスなのかもしれない。
潮溜まりなら逃げ場もないだろう。
ただ、わたしは 銛を持っていない。
それから、獲物も仕留めたことがない。
ウツボは凶暴そうだし素手では厳しいだろう。
下手に手を出すことはやめて、居所を凝視し、相方が海から戻るのを待つことにした。
、、、正直なところ、銛を持っていたとしても真っ向勝負で銛を突き刺すなんてことは勇気がなくてできなかっただろう、、
水から上がる音がした。
ウツボのことを伝えると、すぐさま獲物に向かう。
岩陰の下に隠れていたはずが、いつの間にどうやって移動したのか、少し離れた別の穴から顔を覗かせた。
向こうもこちらの存在に気づいたようで、わたしを睨み、口を開けて威嚇する。
ほかの魚ならこちらの存在に気づけば逃げるものなのに、一歩も引かず立ち向かうなんて。
なんて堂々とした魚だろう。
そして、その横から相方が銛で狙いを定める。
緊張した空気が張り詰める。
一撃だった。
首にしっかり命中した。
ウツボはのたうち回る。
銛にギュっと体を巻きつけた。
蛇のようだ。
刺されても、口を開けて怒っている |
指で解こうとしても全く緩まない。
かなり強い力だ。
ウツボの防衛本能らしい。
これをほどくためには息の根を止める必要がある。
ナイフで目玉を刺した。
そうしてみるみる内に力を失い、銛に絡ませた体が緩んだ。
体を伸ばしてやる |
海水で流れた血と、ぬめりを洗う |
あれだけ急所を刺されても、しばらくの間、ウツボは生きていた。
なんて生命力の強い生き物なんだろう。
突き刺されても尚、闘争心むき出しで、死に物狂いに暴れていたウツボという、この海の生き物が、海の世界の厳しさを物語っている気がした。
その一部始終はショッキングでもあった。
だけど、目の前で殺された生き物を後で美味しいと言いながら食べている自分を想像すると、この一連の流れに対して目を逸らすことの方が生を全うしたウツボに対して失礼だと思った。
むしろ自分の手を汚さずに、可哀想だという気持ちも抱きながら、ただ死ぬまでを眺めていたのに、この生き物を食べようとしている自分がずるい。
これじゃあいいとこ取りじゃないか。
自分でできることなら自分ですべきだという気持ちが掻き立てられた。
正々堂々と海の中で戦い、自分の手で獲物を仕留める必要がある。
それには少なからず危険が伴い、こっちだって命がかかってくる。
それが生き物の世界では当たり前だし、本来、捕食者になるということはそういうことだと気付かされる。
せめて、自然の中に加わるあいだは食べることに責任を持ちたい。
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